我が国では、古来から庶民の日常的な生活習慣として風呂文化が根付いています。古くは石風呂や釜風呂に始まり、寺社の施湯、湯屋、銭湯というように、生活習慣であると同時に公衆浴場業というビジネスとしても発展してきました。
ただし温浴設備に飲食や休憩機能、リラクゼーション等の各種サービスを組み合わせた大型温浴施設となると歴史は比較的浅く、本格的な大型温浴施設が登場したのは1955年創業の船橋ヘルスセンターが草分けとされており、まだ半世紀ほどしか経過していません。
現在老舗と言われる著名な温浴施設(ニュージャパンサウナ、箱根天山、スパリゾートハワイアンズ…)の多くがこの時期に創業しています。
この半世紀で見ると、公衆浴場(銭湯)の減少とその他公衆浴場(温浴施設)の増加が一貫したトレンドでした。これは、我が国の経済成長による自家風呂の普及と、それに伴う身体を洗う場としての銭湯の減少、さらにその反動としてレジャーやリラクゼーションの場としての温浴施設の台頭、というように理解できます。
温浴施設業界は、前述のヘルスセンターにはじまり、健康ランド、スーパー銭湯、そして日帰り温泉と、その時々に時代をリードする業態を交代しながらも、ほぼ右肩上がりの成長を続け、2004年には公衆浴場(銭湯)とその他公衆浴場(温浴施設)を合計して、25,731施設に達しました。
しかし、その2004年ごろがピークとなり、以降我が国の公衆浴場数は減少傾向に転じています。
これは経済成長の鈍化だけでなく、全国的な温浴施設の普及が一巡し(競争激化)、消費者の嗜好が変化するなどの複合要因によるもので、新規出店ペースが鈍ると同時に廃業件数の増加傾向もみられます。
特に2006年秋には、建築基準法の改正によって新規開業案件の進行がストップしただけでなく、道路交通法の規制強化(飲酒運転)による郊外型温浴施設の利用控えと飲食客単価のダウン、岩盤浴バッシング報道による利用者減など、既存施設にとっても厳しい出来事が相次ぎ、売上前年割れを起こす施設が続出しました。
2006年は私ども株式会社アクトパスの創業年でもありますが、業界が成長期から成熟期へと転換した分岐点と言われています。
ここで、1950年代以降、それまでの銭湯の時代から大型温浴施設が登場し、現在に至るまでの流れを少し考えてみたいと思います。
かつては、極端な言い方をすれば「温浴施設をつくれば、放っておいてもお客様は集まる。後は受付と掃除をしていれば良い。」というような時代であったと言えそうです。
そんなに難しいことをしなくても、「銭湯よりも圧倒的に充実した設備」や「健康ランド並みの設備を日常的な価格で気軽に」という存在意義だけで充分に事業が成立したのです。
温浴新業態の変遷は、流通業界に当てはめて考えれば「商店街の店を業種毎に一軒一軒買い物して歩かなくても、生鮮食料品から日用雑貨までがワンストップで揃うスーパーマーケットの登場」「エブリデイロープライス」、あるいは「日常生活に必要なものが24時間、近所の一店舗でほとんど揃うコンビニエンスストアの登場」と同じような現象であったのかも知れません。
業態の進化とは、その時代の消費者にとっての価値(利便性や価格)に対する圧倒的な革命ということであり、大雑把にまとめてしまえば、1950年代以降の温浴施設の近代史は業態進化の歴史であったと言えそうです。
かつての銭湯から、ヘルスセンターや健康ランドといった大型温浴施設が登場した背景には、お風呂を大衆レジャーの場と位置づけ、飲食やエンターテイメントを組み合わせるという発想の転換がありました。
初期のスーパー銭湯は、ジェットなどの浴槽設備バリエーションを充実させたことによって確立しました。
後期のスーパー銭湯や日帰り温泉を業態として確立したのは、温泉旅行並みの満足感を提供する空間を日帰り施設の中に創り出した設計の力だと思います。
しかし、2000年代に入って岩盤浴や炭酸泉などのアイテムの流行り廃りはあっても、温浴業界そのものが一段階ステップアップするような進化はまだ起きていないように思います。
2013年3月、竜泉寺の湯横浜鶴ヶ峰店がオープンし繁盛店として話題になっています。潤沢なマーケットにフルアイテムの温浴設備を導入し、低価格設定で大量集客を実現するそのマーケティング戦略は、かつて流通業界で量販店が頭打ちになった時に次々登場した業態分化を再現しているかのようにも見えました。
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ところで、どうして突然温浴ビジネスの歴史について考え始めたのかというと、実は最近あるクライアントから、「これから10年間のことを予測する」という難しいお仕事をいただいたことがキッカケです。
過去のトレンドから未来予測を行うのは常套手段ですが、もはや現在の延長線上に未来の予測図を描くことはできないように感じています。
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